インプラント外科処置の基本と勘どころ

 近年インプラント治療の普及に伴い、抜歯や歯周治療以外にも外科処置が頻繁に行われるようになってきている。しかし、大切な基本を知らなかったり、慣れからつい忘れてしまったり、その積み重ねが大きなトラブルに繋がることも少なくない。どんなスポーツや芸能にも基本があるのと同じように、外科処置にも基本が重要である。基本に則った手技は美しく、処置を確実にし得る。楽しみさえある。そしてその技術の発展系が、素晴らしいテクニックと結果に繋がることになるのではないか。イチロー選手、松井選手、であっても必ず試合前にキャッチボール、フリー打撃をしている。それこそがスーパープレーの秘訣なのではないだろうか。
 すべての外科処置は切開に始まり、縫合に終わる。切開、剥離、縫合。これら一連の処置を確実、安全に行うことが成功への鍵となる。

 まず、切開線の設定は血流優先の観点から歯槽頂切開を基本である。また、抜歯や歯周炎による骨欠損部位への切開は避ける。事前のCT検査だけでなく、局所麻酔をする際の針でも確認することが出来る。切開は遠心から粘膜に垂直に!骨膜まで達したところで骨膜を感じながらメスを滑らせる。決してノコギリの様には用いてはならない(骨膜が断裂するのみで剥離はきれいにできない。)視野の確保のため、縦切開、遠心V字切開を加える。縦切開は、なるべく審美部位を避け、粘膜の厚みのある部位を選択。剥離は骨膜にダメージを与えないように慎重に剥離しフラップを形成する。骨膜起子等を骨膜に当て、先に突くのではなく横に滑らせるイメージが良いと思う。フラップは充分な視野を確保するため縫合糸で牽引をする。これは骨へのドリリングの際の粘膜の巻き込み防止に役立つ。
「明視野はすべての技を可能とする。」

  縫合処置は基本的に、一次治癒を目指す。必要に応じて減張切開を加える。部位は歯肉頬移行部より深部で新しいメスを用い慎重に骨膜だけを切る。フラップは有鉤ピンセットで丁寧に(向きに注意)扱う。また、ここで重要事項として骨膜と骨膜、結合組織と結合組織、粘膜と粘膜を確実に寄せる(レイヤーtoレイヤーの法則)ことが肝心である。レイヤーが異ならないように、組織が内転しないための単純縫合であり、マットレス縫合である。糸は骨膜下まで(両面型運針)かける。また、同時にフラップへの血流を確保することも不可欠である。貧血帯が出来るくらいの強いテンションで縫合した場合、局所の血流障害から組織壊死を生じ、創部の裂開が起こる。結果的に感染や治癒遅延を起こしかねない。抜糸の際に糸がすでに取れているのは、骨膜にかかっていないか、縫合の方法が悪いかどちらかである。(外科結び、男結び)
 最後に抜糸だが、非常に慎重に行われるべきである。もしプラークが付着したままの糸が一次治癒を起こしている組織下を通過すると、細菌を骨膜下にばらまくことになる。そこには細菌の繁殖に適したデッドスペースがある場合がある。隣在歯の病的ポケットや根尖病巣からの感染もあり、感染対策には充分気をつけたい。

 以上、基本的な事を挙げたが、これらを確実に行うには日常のトレーニングが必要である。私が日々行っていることは、抜歯後必ず縫合をする、智歯抜歯後に減張切開を加え完全閉鎖を試みる、抜歯の際に隣接歯のフラップオペを行う、外科処置後の治癒を(写真等利用し)良く観察する、等のいつでも出来ることである。そして、これらの発展系にGBR,骨移植や粘膜移植、サイナスリフト等の処置がある。

 新しいことをするには壁を乗り越えなければならないが、誰でも最初からすべてが出来るわけではない。毎日の臨床の中からチャンスを見つけ、繰り返し研鑽することが次へのチャレンジを可能にするのではないだろうか?繰り返すことにより、いつもと違う、何か変だ!と気づく感性も養われてくる。それは多くのリスクマネージメントにも役立つに違いない。イチローも松井も、きっと今日もキャッチボールをしていることだろう。より確実で安全で華麗なプレーをするために。