東北地方太平洋沖地震 身元確認を行った歯科医師としての提言

第1回:3月17日から22日
第2回:4月8日から11日
およそ半月の間隔を経て2回現地にて身元確認を致しました。
僭越ながら、以下3点のご報告を通して、皆様にご一考頂く機会を頂戴できましたら幸いに存じております

。 1.混乱時の命令系統について
2.自立を目指す支援の提案
3.100年後まで見越すリーダーシップについて

1.混乱時の命令系統について
狭く歯科界のことですが、今回、あらゆる団体、企業で同じようなことが起きたのではないかと思います。
歯科医師会は国、県、市区町村、それぞれ実際は縦割ではなくて、同等に機能しています。入会は義務ではないので、非加入の歯科医師も多いです。
<報告>
今回、震災から6日後に現地入り致しましたが、多数のご遺体に対して歯科医師が全く不足している状態にも関わらず、(各被災地での歯科医師会によって対応が異なるのは被災直後ですから仕方のないことです)、緊急に開業医を派遣する非・被災地の側の歯科医師会の組織ができていません。開業医がすぐにでも現地に駆けつけようとする意志があっても、混乱防止のため歯科医師会を通すように、との一点張りです。現地では当初人手不足の中、被災者でもある歯科医師が毎日、多数の遺体を確認している状態でした。大学を通した法医学のスペシャリストの派遣は迅速でした、が、震災直後は寒さのせいもありご遺体の傷みも寡少でした、家族が面会すればほぼ確認がとれます。法医学的な診査、慎重な照合が必要な時期はむしろ、震災後半月以降と考えます。二度目に現地入りした際、遺体の損傷、腐乱がすすんできており、家族でもお顔だけでは判別困難を窮めておりました。ここからが法歯学の専門医(大学関係者)の出番であり、これは長期戦になることと思います。
支援の形は刻々と変わっていくものと思います。
これから先ボランティアとしての歯科診療は、現地の方の復興の為の報酬をかえってなくしてしまうこともあります。仕事をなくされた、診療室を失った現地の方々の皮肉にも格好の職場(言葉が適当でないかもしれません)、経済の場所なのだと思いました。
<提案>
大規模災害の直後、いかに早くご家族にご遺体を返すか、そのためには全国からの歯科医師の迅速で大量の派遣が必須です、今回の震災に対して、自分のリスクを省みず、長年携わってきた歯科医師として出来る手伝いをしたい、泊まるところなんて何処でもいい、雑魚寝で構わない、寝袋で布団などいらない、ご飯など食べなくても、カップラーメン持って行けば、心の準備、自分の診療室の段取り、家族の理解も得て今か今かと待機していた先生が沢山いました。
このような全国からの緊急支援はおそらく15日間で十分です、15日経過頃には被災地の歯科医師で十分対応できます。地元の歯科医師会の混乱も収束に向かい、一致団結して身元確認の仕事と地元歯科医師の復興に邁進できます。
同時に法医学の先生による慎重な照合を開始することになると思います。以上のような組織だった対応、熱意ある歯科医師の思いを無駄にしないよう、被災者、現地の先生方の気持ち、状況も理解した形での支援を全国規模でとりまとめることの出来る権限を歯科医師会の中に(または全く違う組織として)設置することが、今後起こりえる東海大地震にも備え、急務と考えます。
私の無知から、既に、相応する組織があるとしたならば、今回は全く機能しなかったと思われますので、早急な見直しが必要です。
警察医登録制度も資格の形骸化が進んでいる感があります。緊急時に本当に対応する意志があるのかを日常的に確認しておく必要があります。今回、日本の数々のボランティア団体が組織を超えて一丸となって対応したことに学ぶことが多々あると思います。

2、自立を目指す支援の提案
これは、私が個人的に被災地から戻って感じた事です。
<報告>
前項にも書きましたが、身元確認の仕事も震災から時が流れるにつれて、他県からの援軍は控えた方がいい、と感じるようになります。
支援は活力を押さえる形になっては無意味です。
絶望の後にやっと生じた活力が一気に燃え上がるような支援こそ、必要だと思います。
併せて、2回目の身元確認を終えて、ご遺体の状況から、もう、一般の 歯科医師では難しい時期と感じました。
ここから、我々のしなければならない支援を模索すべく4月29日に再度、被災地を訪れました。
復興の力のすばらしさを感じました。道路はダンプカーが一杯です。まだまだ重機の入っていない地域も多いですが、捜索の終わった地点の目印、目印に応じた瓦礫の撤去、撤去した瓦礫の地区ごとの分別、分別終了後の瓦礫の運搬に列ぶトラックの列、各地域から集まる巨大な瓦礫集積所。
捜索は自衛隊、信号機の動かない交差点や治安は警察、消防、のように役割の分担も明確化し、一方で瓦礫の撤去と仮設住宅設営を多くの他県の業者が支えているように思いました。
石巻のハローワークを訪れましたが、祝日にも関わらずひっきりなしに人々が訪れ、掲示版やノートを多くの方が閲覧されていました。 <提案>
4月末の段階での課題は、
第一に、行方不明者の捜索、
第二に、生活圏の確保(瓦礫撤去、住宅確保、雇用など)
第一については、自衛隊、消防隊とご家族、関係者に依ることと思います。
第二について、以下、疑問点含めて提案させて頂きます。
* 大多数のトラックと運転者が動員されていますが、費用は政府負担なのでしょうか。他県の業者が利益を得ることを阻止し、その分、被災者に行き渡る制度にして頂きたいと思います。政府がトラックを買い上げて、当面の雇用が望めない被災者に運転手を依頼する。瓦礫の分別等も、同じ被災者として向き合うことは酷かもしれませんが、仕事として被災者に依頼する。仮設住宅建設も地元民の仕事にする。復興のための会社を設立することは可能でしょうか。
* 全国の宿泊施設を仮設住宅とする。
海外への風評被害により、よさこい日本の観光地は危機に立たされています。特に宿泊施設は従業員の雇用をも困難になってきているのが現状です。一刻も早く義援金や赤十字の募金を被災者に分配、または宿泊費用を国で補うことでお互いの負担軽減、利益につながることと思います。被災者自身による住居地の選択ができるようにしたい。選択枝の一つとして、各地の大変苦しい状況にあるホテル、旅館での滞在を入れる。一日も早い生活の場を確保することが重要で、それは仮設住宅建設を待つということではないと思います。
旅館がボランティアとしてではなく、通常の営業として、長期滞在に対応する仕組みを作る。1年から3年の期間を設定し、当地での雇用も提供する。期間終了後に希望によって出身地への帰還を保証する。

*100〜1000年先まで考えた街作り
過去に幾たびとなく受けた苦い経験を繰り返すことなく、人々が将来の生活の安心として、定着する、または移り住んでくるような魅力ある街にするために、今回の津波到達点内において住宅は復興の事業として考えず、国がいままで以上の代替え地を提供し、津波によって影響を受けた地域を産業のみ地区とする。産業の場と生活の場の区別であり、このことはその地域の人々の生活、家族の安心、安全に繋がるものと思います。
* 仕事をなくされた方、就職を探している方を募り、当院でも、また私の知り合いに紹介もして一人でも多くの職場を何とかしようと考えております。これは歯科に限らずすべての業種に言えることと思います。希望者は現地に限らず短期でも関東やそれ以西の地区で、仕事の場を! と早期の対応が必要かと思います。このことは後方支援としても、今回の震災において何かしなければ、したいと思っていられる人々、企業にもモチベーションを高めることになり、日本が一つになるという形のありかたとしては良いと考えております。
現地は復興のパワーで盛り上がって来ています。遠くから見守ることも支援の一つかもしれません。そして我々が元気で、東京の経済を動かして行かないと、まわりが元気でないと。やれることは山ほど色々な形であります。
具体的には、他県への就職希望者への合同説明会を開催する。ハローワークの紹介だけでは他県への就職は心配、個人商店などを集めて被災地近くで雇用条件や質問に直接答えることのできる機会を作る。

  3,100年後まで見越すリーダーシップについて
『1つになろう日本』と最近耳にします。
肝心な政府が、民主党の中でも足の引き合い、自民党との対立は、全く目先の権力争いにしか見えません。
今、本当に日本をなんとかしよう、1つにしよう、と考えていく人に今後の日本を率先していただきたい!と思う次第です。
常に世の中、社会は熱い人、常識をはるか越えた人々によって変えられてきました。
計画停電などのなかば強制的なものでは、病院診療の停止(手術も含め)、電車の不通、信号機停電による混乱、トラブルをおこし、人々の不満、 やる気を喪失するばかりです。一人一人が意識して節約節電をするほうが、どこか心の中で頑張って支援しているという意識(モチベーション)を高め、維持出来るのではないでしょうか。
日本経済が止まってしまっては復興困難です。
震災以後 台北、上海と訪れましたが、活気で満ちあふれています。世界はめまぐるしく動いています。危機感を感ぜざるをえません。日本の復興を産業と考えている他国の企業もあることでしょう。日本を守る、地域を守ることも必須と考えます。
生活があるからこそ、人は生きています。晴れた空や、満開の桜や、旬の食べ物を、共に喜ぶ人たちとの関わり、案じ合う思いやり。歯科医だからこそ、食の面から、人々の生活を支えることができる、悲しみの中で、桜の開花や子供たちの笑顔が、一瞬心を和らげてくれるように、一口の味わいが全身に力を沸き起こしてくれることを、私は支えて行きたい、と願っています。

より良い歯科界、社会、世界へとなりますように! 
私もより良き社会を目指す、最前線の一員でいたいと思います。